曝ける(さらける)

喉が渇いていたことを覚えている。喉が渇いていない時があったことも、同じように覚えている。気がついたら特に酒を飲んだわけでもないのに、吐くほど水を飲んでいた。食道の水位が上がっていく感覚のあと、液体が体から溢れる。鼻の粘液に薄い塩酸が刺さり、咳込んだ。刺激臭の中にハトムギ茶の香りを確かめ、爽健美茶を飲んだことを思い出す。カフェインが苦手だからと安い緑茶を避け、40円高爽健美茶を買ったことも。こんな状況で。

23歳になった。奇数かつ4年ぶりの素数。長い22歳だった。今思い返しても長かったと思うし、長いということはただ意味のある出来事がたくさん起こっただけだったとも思う。

私は過去に逃げ込むことで自分の苦しみから逃れようとしている。そして私は、多くの人は未来に逃げ込むことで自分の苦しみから逃れることを知っている。人は未来に逃げ込むとき、時間軸と交わる何かを願う。その存在が自分の苦しみを断ち切ることを信じて。私が過去に逃げ込むとき、ただ私の記憶のみが自分の苦しみと繋がり、逃れるきっかけを与えるはずである。しかし自分の苦しみは断ち切られず、記憶との癒着を強めるばかりである。

アスファルトには、誰かの吐き捨てたガムとタイヤ痕があり、黄色の電灯が中腰の人間の上半身の影を映す。そしてその上から、かつて爽健美茶と私の消化液であったものが覆いかぶさっている。この液体はもう、ペットボトルの中にも胃の中にも戻らない。そしてこの液体は5分前も今も、そしてこれからも、私の渇きを癒さない。渇きはもう癒えない。ふと目を上げると自動販売機が煌々と輝いていた。ディスプレイの中で、プラスチック製の清涼飲料水が光っている。それは幻だったのかもしれないが、確かめるまでもなく踵を返して、白線の剥げたアスファルトを踏み締めた。